某日、マルフタサンマル。その鎮守府で提督が亡くなった。過労死との診断であった。
彼は元々研究者であったらしく、その名残からか執務の他に工廠に籠って研究に没頭する癖があり、生来の病弱な体質と相まってこれが原因という見立てを加味した結論だ。
突然の事態な上、軍部は人手不足に悩まされており、代替となる提督が配属されなかった。しかし亡くなった彼自身がそれなりに有能な指揮官であったが故に、ある程度戦果を挙げていた当鎮守府を放棄する訳にもいかず、その他諸々の要因が相まって上層部はある未曾有の決断を下すことになる。
<当鎮守府内の艦娘から、提督の代理を立てて彼の持っていた任務と権限全てを引き継ぎ、新提督として迎えること>
勿論、彼の持っていた任務が片手間に出来る訳もないため、新提督となった艦が戦場に赴くことはなくなるだろうが、現状で戦力が整っており、1人くらいなら欠員も問題ないとの判断によりこの案が採用されたのだった。
こうして命令書が届き、鎮守府内にこの情報が知れ渡ったある日のこと。
「どうぞ、入ってください」
その日、練習巡洋艦の鹿島が今は亡き提督の執務室をノックし、部屋へと入っていった。
中には鹿島を呼び出した当人である大淀がいるだろう。彼女は以前より彼の執務の幾らかを手伝い、今も彼の持っていた執務をこなしていた。
呼び出された理由については聞いていなかったが、鹿島は大淀の次に執務室に訪れることが多かったため、これに関することだろうと話の内容自体の目星はついていた。
「失礼します……えっ……?」
部屋には彼女の予想通りの位置に座っている大淀と、他にもう1人居たのだ。
「明石、さん……?」
「久しぶり、ですね。鹿島さん……」
元研究員で、それ故に工廠に籠りがちだった提督と、工作艦ゆえに基本的に工廠に居た明石。同じ場にいた二人は徐々に仲を深め、いつのまにか二人の薬指には指輪が光っていた。
そのせい、なのだろうか。提督の訃報が出回ったその日から今日に至る1週間もの間、明石は工廠から一歩たりとも外に出ることはなかったのだ。
そんな彼女がこの場に現れた。その事に喜びもあったが、不安もあった。立ち直ることはできたのだろうか、と。
そんな思考を遮るように、まず大淀が声を発した。
「それなりに長い話になると思いますし、立ったままというのも難ですのでそこに掛けてください。あ、明石、コーヒー用意してもらえますか?」
「それはいいけど、このコーヒー豆ちゃんと新しいやつ?」
「定期的に入荷してますから、新しいですよ。あと私がちょくちょく飲んでますし」
「そっか、じゃあ大丈夫だね」
明石は立ち上がり、執務室内の一角で珈琲の準備を始める。いつも通りの、自然な動作。その動きは立ち直るというよりも、まるで初めから沈んでなどいなかったような……
(……あれ?)
「はい。砂糖とミルクは机の上のそれ使ってね」
「あ、ありがとうございます」
思考を遮るように声をかけられ、感じた違和感について考えるのをやめてしまう。
そしてふと、コーヒーの香りに興味が移る。
(あ、これ、この匂い。そうだ、提督さんずっとこのコーヒー飲んでたな……)
自分も淹れた事のあったコーヒーの匂いを思い出しながら、普段飲むことのないブラックコーヒーに口をつける。
「苦っ」
ブラックって、こんな味なんだ。などと思いながら自分には無理だと判断してミルクと砂糖を追加し、再びゆっくりと喉に流していく。
暖かさが身体に染み込んでいくのを感じる、この感覚は嫌いではなかった。
「そろそろ始めましょうか、今日鹿島さんをお呼びしたのは、以前より上層部から命令が下ってた提督代理の件でして」
ここまでは予想通りだった。鹿島の予想では現在提督業の殆どをこなしている大淀が代理となり、自分は補佐に回ることになるのだろう、そう考えていた。しかし彼女の口から出た言葉は予想とは異なるものだった。
「鹿島さんに提督代理を務めて貰いたいんです。」
「……え?」
突然のことに混乱してしまう。自分が代理になるなど考えたこともなかった。だから直接訊いてしまう。
「な、なんで私なんですか……? 代理なら、大淀さんのほうが……」
「そうですね、私でもいいかなと思ったんですが、提督たっての希望なんです。次は鹿島さんがいい、と。鹿島さんを次の提督にしたい、と。」
「え、なんで提督さんが、それって、どういう……? あ、あれ……?」
疑問が次々と頭の中に浮かぶ中、ふと全身に違和感を感じる。身体の力が恐ろしい勢いで抜けていっているような感覚だった。
フラフラとよろめき、力なくソファにもたれかかってしまう。
(なんで、身体、動か……え……)
意識はハッキリと混乱したまま、ただ身体だけがピクリとも動かない。しかし何より鹿島を混乱させ、恐怖させたのは大淀と明石の、まるで予定通りだと言わんばかりの態度であった。
「……上手くいったみたいですね。しかし何で痺れ薬なんですか? 睡眠薬じゃダメだったんですか?」
「んー、あの人が言うには眠っている状態だと覚醒時に比べて定着率が落ちるみたい。だから使うならコレにしとけって渡されたの」
(あの人って、まさか提督さん……? 定着って、なにが……?)
訳もわからず、ほんの少しだけ動く瞳で2人を見回す鹿島。明石がそれに気づいて近づいてくる。
「そっか意識あるんだもんね。折角だし今から何するかも教えてあげよっか」
明石は話を始める。ここ暫くの間研究対象としていた、目に光る炎のようなものを宿すelite級やflagship級について。本体の意識は炎の中にあり、その身体はただ器として使われていること、そして何より、この機能は身体的にほぼ同じ構造とされる艦娘にも適用出来るのではないか、ということ。
「提督ね、最近ずっと言ってたんです。自分の身体じゃ研究を完遂できない、もっと強い身体が欲しい……って」
「で、提督が選んだのが鹿島さん。貴女なの」
(そんな、うそ……提督さんが、私の身体を……!?)
歯をカチカチと鳴らして恐怖する。しかし身体は全くいうことを聞かず、ここから逃げるどころか、動くことすら出来なかった。
そうしているうちに、明石が青色の液体の入った注射器を取り出して近づいてくる。
「この中に解毒剤と、提督の意識、記憶、その他全部を纏めた、いわゆる魂みたいなものが入ってるの。頭がないから意識はほぼ無いんだけどね。あとはこれを注入すれば、提督が貴女の脳を乗っ取って目覚め、生まれ変わるの。さ、提督。もうすぐ新しい身体が手に入りますからね……! 」
うなじの真ん中あたりに注射針を突き立て、差し込む。チクリとした感覚とともに、何かが流し込まれてくる。
そのときから、身体中にじわり、じわりと痺れが取れていくのを感じる。そしてそれは同時に、解毒剤と一緒に入っている「何か」を身体に取り込んでいる証拠でもあった。
「ぃゃ、ぃやぁっ……!」
解毒剤が効いて自由になった口で抵抗の言葉をこぼす。しかし身体はそんな彼女の抵抗の意思など無視して液体を体内に取り込んでいく。流れ込んだ液体は脳内に留まり、細胞の一つ一つに結びつき、潜り込み、それらを勝手に支配してしまう。
他人の知識が、意識が、記憶が染み込み、以前から存在していたかのように頭の中に書き込まれ、馴染まされる。
そしてついに、鹿島という少女の脳を得て魂だけだった意識が覚醒する。
(ん、上手く行ったみたいだな……ふーん、これが鹿島の、他人の頭の中か……そんな、私の頭の中で、勝手に……これ、提督さんなの……?)
「当たり。久しぶりだな、鹿島。にしても良いな、お前の脳みそ。中々良い使い心地だ……」
提督の魂を取り込まされ、頭の中には2つの意識が存在する状態。普通の人間なら拒絶反応が起きてもなんら不思議ではない状況。しかし艦娘の身体は、脳は、彼らの研究の通りに「2人乗りが想定されて」いた。それも提督にとって最高の形で、鹿島にとって最悪の形で。
彼女の肉体は入り込んだ魂に対して「器」としての機能を果たそうとしはじめたのだ。身体中の細胞が、機能が、その支配権が一つずつ彼に委譲され、奪われていく。
(ぃ、ゃぁっ……! そんな……意識……が……!)
「これからは俺がこの身体を使わせてもらう。お前の魂にも俺の一部として頑張ってもらうから、これからもよろしくな?」
(嫌っ、嫌ぁあぁああぁああっ…………ぁ……ふふっ、ふふふ、あはははっ!)
頭の中で断末魔の如き悲鳴をあげるが、少しすると先ほどまでの恐怖も嫌悪感も消え去り、頭の中は喜びと嬉しさでいっぱいになっていた。これが彼女の脳の中の、思考の全てが彼に乗っ取られた瞬間であった。
「これが艦娘の身体か……柔らかく、滑らかで、んっ、少し敏感だな……」
入り込んできた魂に恐怖し、拒んで身体を抱きしめていたはずの両腕で確かめるように二の腕を、肩を、鎖骨の周りを撫でていく。
神経が触れられた感触を返すごとにジワリと新たな魂が肉体へと染み込んでいく。
その様子を見て明石が彼女へ声をかける。
「提督、上手く行ったんですね……!?」
「ああ、まだ薬が残ってるせいか少しピリピリするがこの通り。この身体は完全に俺が貰い受けたよ」
ニヤッと笑いながら答える鹿島。その表情は生前の彼と同じであったが、鹿島の可愛らしい顔でしている分いくらか色気のようなものがあった。
その顔を見て、確信する。彼女、いや、彼こそが……!
「あぁっ……! 提督っ……!!」
「うぉっ」
目に涙を浮かべながら、ソファに座る彼女に抱きつく。彼も驚きながらも、何とか明石を抱きとめた。
「おかえりなさいっ……良かった、良かったぁ……!」
「1週間、よく頑張ってくれたな。大淀も、上への根回しご苦労だった。2人のお陰で健康で丈夫な身体が手に入った」
泣きつく明石をなだめ、手伝ってくれた大淀をねぎらいながら、つけていた手袋を脱ぎ捨て、自分の手を顔の前に持ってきて珍しそうに眺める。細く綺麗な手、整えられた爪、それらが自分の思うままに動いている事に満足そうに微笑んでいた。
「さてと、そろそろこの新しい身体のこと、いろいろ試したいんだが……」
「な! 浮気ですか提督っ!」
「いやもう自分の身体なんだし浮気ではないだろ」
「その身体を選んだのだって身体目当てだったんでしょ!!」
「そんなことないぞ、ちゃんと頭が良くて使いやすそうな身体をだな……」
「じゃあ何で大淀にしなかったんですか!」
「えっ」「ええ……?」
…………
しばらく痴話喧嘩のような言い合いが続くも、最終的に明石が折れて部屋には鹿島1人が残る。
「ふぅ……じゃあ早速、新しい身体の具合を試すとしようかな……!」
そう言うとニヤーッといやらしく笑みを浮かべ、視点を下に向ける。その先にあるのは胸についた柔らかな二つの膨らみ。
鹿島は笑みを浮かべたまま、制服の上から胸をむんずと掴む。
「あぁ……凄い良い……服の上からでも柔らかいこの感じ、興奮するなぁ……!」
掴んだ手でぐにぐにと揉みしだくと服と下着の奥で柔らかくプルプルと震える感触がある。
触れば触るほど身体は興奮し、奥からとめどなく熱と快楽がないまぜになって身体中に拡がってくる。拡がった快楽がじわっ、と身体に染み渡る。揉めば揉むほど興奮は高まり、頭の中で勝手に生まれた欲望と結びついて身体を支配していく。
「あぁぁっ、良い、ホントに、いい身体だ……んっ、これ、乳首、ブラに擦れてっ、ひゃっ……!」
彼の意識の所有物となった胸の双丘。そこに通う神経に一本一本に彼の意識から生じた興奮の命令が流し込まれ、乳首がプクッと膨らむのを感じると同時に下着に擦れて乳首を中心に甘い痺れをもたらす。
そしてその快感は、彼の興味を惹きつけるのには十分すぎて。鹿島の両手はボタンに手をかけ、彼女の着ている服を剥ぎ取ろうと動き始めた。
「もうこの身体は俺のものになるし、自分の身体の事なら知っておかなきゃいけないからさ。鹿島の、いや俺の綺麗なカラダ、見せてもらうぞ? ……うぉっ、これやば……!」
操られるままに服を剥ぎ取り視界を下にやると、可愛らしいレースの下着に包まれた豊かな乳房が眼に映る。
脳内に男の意識を流し込まれ、彼が住みやすいように調整され始めた脳は新たに手に入れてしまった男としての性欲を染み込ませていた。
もはやただの器と化した鹿島の肉体に抵抗する術など存在せず、頭の、魂の中で生まれはじめた欲望は彼女の思考に根を張り、渦巻き、本来あるべき思考として定着しはじめる。
「上からこうやって俺のものになったおっぱいを眺めるのも良いけど、この視点だけじゃ足りないよなぁ?」
そう言うと彼女は全身鏡の前へと移動し、自分の姿を見る。
「うわ、えっろ……!」
鏡に映ったのは服をはだけて白く透き通るような肌を晒し、頰を赤らめて淫靡な笑みを浮かべ、目の前の相手を誘惑する鹿島の姿であった。右の瞳は青く変色し、本来の彼女ではない意識が宿っていることを示しているかのようであった。
柔らかな肌の奥で、今にも突き破りそうなほどに心臓が強く高鳴り、熱い血液が循環することで身体中で発情のスイッチが入っていくのがわかる。
「こんな良いカラダが目の前にあるんだ、弄らない方が失礼だよな……!」
そういうと細くしなやかな指を操り、下着の上から乳房を再び鷲掴みにする。先ほどより確実に、強く、むにゅりとした感覚と乳房が押し潰される感覚が体内を走り回る。
「ぁあぁあっ……! 良いっ……!」
柔らかな手と肌の感触は女の子の身体を弄っているという事実と、女の子に身体を弄られている事実に変換されて、揉めば揉むほど新鮮なその感覚に酔いしれてしまう。
……今、彼女の身体は女として人生を歩んできたにもかかわらず、この感覚を「新鮮」と受け取ってしまった。それは身体の中が新しく入り込んだ男の意識に適応した証ともなっていた。
「ぁあっ、下着、邪魔だっ……!」
興奮のままに手は下着をするりと落とし、乳房の全てを露わにしてしまう。
「おほっ、綺麗なピンク色でぷっくりしてて……! んっ、これ、ピリピリするっ……!」
堪らなくなってプクリと膨らんだ乳輪に触れる。触れるたびに流れこむ痺れるような快感を、何度も何度も執拗なまでに愉しむ。快感に反応して漏れる可愛らしい少女の甘い声に男の意識を宿した身体は反応を示し、女としての興奮をさらに強めていく。
「触るだけでこれなら、摘んだら……っ……ひぁぁっ、ぃいっ、脳みそ、溶けるっ……!」
摘み、力を少し入れた瞬間、今までとは比較にならない位強烈な快感が襲いかかってくる。気持ちよさでトロトロに蕩けた身体は支えを失くし、ソファへと完全に身を委ねてしまう。それでも刺激する手は止まらない。身体を支配する欲望の赴くままに、乳首を指で撫で転がし続け、身体中が快楽の電撃を受け入れる。
「はぁっ、はぁっ……ひゃっ、やばいっ、この身体っ……! これが、鹿島の……いや、俺の、新しいカラダっ……! この身体の、女としての快感も、トロトロになったスケベな顔も、全部、全部、これからずっと、もう俺のものなんだ……! ひゃぅぅっっ!!」
彼女の口を、喉を、声を使ってその身体の全てを自分のものだと宣言すると、身体はそれを受け入れるかのように感度を上げ、その身体を更に強い快感に酔わせていく。
鹿島の身体は、提督の魂はもはや乳首が織りなす快楽の虜になり、摘み、抓り、伸ばし、あらゆる手段で刺激を与え、甘ったるい嬌声を上げ続けた。
「やっ、やぁっ、これっ、キてるっ、まさか、射精みたいな、この感じって……! 私、俺っ、乳首だけでっ! そんなぁっ! 私の魂にっ、潜り込まれてっ……! やぁぁあぁあっっ……!!」
ビクッ、ビクンッと身体を震わせ、頭の中が白いモヤに包まれる。軽くではあったが、その身体は確かに絶頂を迎えていた。
「はーっ、はぁっ……あぅ……すっご……まさか、乳首だけでイっちゃえるなんて……こんなの私も初めて……え? あれ?」
余韻に浸りながら、先ほどの絶頂について考えて、そこでふと気づく。
「ぇ、うそ、あははっ、これ、「私」の記憶だっ……! そっかぁ、私、提督さんの新しいカラダにされるだけじゃなくて、記憶も性格も思考も、ぜーんぶ盗られちゃうんだ、提督さん、ホントに私だった全部を「器」として使うつもりなんだぁっ……!」
元々「2人乗り」が想定されていた艦娘の肉体は、支配者の魂が乗っ取った肉体の能力を十全に引き出せることは最低限の条件であった。ゆえに今、提督の魂は鹿島の肉体を経由して彼女の魂へと根を張り、一体化し、鹿島の魂は新たな所有者を登録して再起動を果たしてしまった。
「提督さん、お憑かれさまです。練習巡洋艦、いえ、提督さんの新たなボディ、鹿島、改めて着任です。うふふっ」
鹿島の魂に命じて、着任してきた初日の真似をさせる。
しかしその姿は先ほどの自慰によって上半身は裸で、スカートを捲り上げているなど彼によるアレンジが加えられており、彼女の全てが彼の新たな所有物に成り果てた証拠でもあった。
「さっきから私を犯したせいでぐちょぐちょになってるココも、もう全部提督さんのモノですから、好き放題弄り回してもいいんですよ?」
言いながら鏡の前で、今度は両手でスカートを捲ってパンツを見せびらかす。可愛らしいデザインのそれは中央にシミを作り、シミはなおもじわりじわりと広がっていた。濡れた影響で生地は肌に張り付きべたべたした感触を感じるとともに、鏡に映るシミの中央に薄っすらと縦に1本のスジが入っているのが見える。
「ぅわ、これやば、興奮してきた……!」
能力で選んだ。確かにそうは言ったものの、見た目を加味しなかったといえば嘘になる。
ふわっとした髪も、綺麗な声も、透き通るような肌も、整った顔立ちも、何もかもが魅力的で、正直元の身体では何度も彼女で抜いたことがあった。
そんな相手の身体が、魂そのものすら今や自分の思うまま。昂ぶるままにスカートの中に手を突っ込み、そっと柔らかな布地に手を伸ばす。
「んっ……ゾワッとする……っ……!」
触れた下着の奥から甘い痺れが伝わる。その感覚に惚れ込み、ゆっくりと指を動かすと、更にピリピリと快感が流れ込んでくる。下着越しでも指に粘液が付着し、クチ、ニトと淫靡な音も漏れはじめた。
「ひぁっ、すごっ、これがっ、わたし、のっ、おんなのこの、カラダぁっ……!」
快楽に流されて、だんだんと弄る手に力が入る。性器から滲み出た粘液を潤滑油として、指がパンツごと、ゆっくりと侵入してしまった。
「ああぁっ、きもちいいっ、これ、クセになっちゃうっ……! あはっ♡提督さんっ、もっと、鹿島のすけべなココ、ぐちょぐちょしてぇ♡ああっ、これ、理性こわれるっ……!」
鏡には立ったまま股間に手を当て、上気した顔で自分を見つめる鹿島の姿。そんな淫靡な姿に彼女の中に棲み憑いた彼の、男としての性欲が耐えられるはずもなく、あっけなくと下着とスカートが剥ぎ取られてしまう。
「ホントに、私なんだ……何にもついてないんだ……! でもこんなにエッチなよだれ垂らして、トロトロで、うふ、ふふふっ!」
股間の喪失感に一抹の寂しさを覚えるも、そんなものより女性器への興味と喜びが勝った。
外気にさらされたそこは、刺激を懇願するかのように粘液をこぼし、ヒクヒクと蠢いている。
誘われるように指を近づけ、触れた。
「んっ、あんっ、これ、すごっ……!」
先ほどの布越し以上の強い快感が襲ってくる。触れば触るほど意識は快楽と欲望に支配され、くちゅくちゅと刺激を続けてしまう。
擦れる感覚が心地よい経験として、頭の中に刷り込んでいく。自分が使うとこんなにも気持ちいいんだと、自分こそがこの器に相応しい魂だと、新たな身体に教え込むように。
「ひゃああっ……これっ……気持ちよさが強くてっ……! 前より、ずっと、私の中にっ、俺が混じってくる、馴染んでくるっ……!」
たまらなくなり、空いた手で乳首をこね回し、さらなる快感を求め続ける。
それは馴染むなどという些細なものではなかった。細胞の1つ1つに、新しい身体の所有者の存在が深く刻み付けられ、瞳にうっすらと青い炎のようなものが灯る。艦娘であるその身体は容易く彼の支配を受け入れ、生まれた瞬間から彼の魂に使われて生きていくことを前提とした器へと作り替えられていく。
「あぁんっ、やぁあっ、きもちいいっ、きもちいいよぅ……感じるごとに、どんどん私が俺に溶けてくぅっ……! 溶けたくないのに、溶かしたくて、もっと、もっとぉっ……!」
彼の魂は根をはるだけに飽き足らずに侵食をはじめ、少しずつ2人の境界が薄れだしていく。
侵入者であるにもかかわらず、支配者である彼の魂を基準にして、鹿島だったものは彼の中に溶けはじめていた。魂は最後の力を振り絞って抵抗を試みるも、身体を奪い、魂にも根を張られた今その抵抗は儚いものとなって侵略を受け入れてしまう。
「すごいっ、すごいっ……! 溶けるごとに、溶かすごとに気持ちよくなってるっ! 乗るだけじゃなくて、混ざり合って、1人の身体に、2人分の魂の気持ちよさが同時にキてるっ……!」
溢れでる尋常ならざる快楽の奔流に腰が砕け、ペタリと座り込んでしまう。
高い反応精度を引き出すため、肉体は受けた感覚を体内の魂両方にフィードバックする。2人の魂の感覚を同時に感じる事で、高い性能を引き出す。
たしかに2人乗りによる仕様ではあったのだが、本来その器は快楽を得る事は想定されていなかった。2人分に研ぎ澄まされた感覚が強烈な快楽へと姿を変えて脳を焼き焦がす。
「あっ、あ"あっ……! すごいっ! こんなのっ、こんなの私も知らないっ……! こんなの覚えたらっ、戻れなくなっちゃうっ……!」
弄れば弄るほど頭の中を快感が走り回り、その感覚を身体中が勝手に覚え込む。覚えれば覚えるほど、身体は今の状況に適応していく。数刻前まで赤の他人だったはずの「彼」に支配されて生きていく事こそ自分にとって最優の生き方だと。そしてその為に、自分を支配する主の魂を手放さないように、と。
「やあぁっ、カラダがぁっ、私のカラダがっ……! 俺側につこうとしてるっ……、私を裏切って、俺のカラダになろうとしてるっ……!」
彼の魂を最優先事項としてしまった彼女の身体は遂に、新たな主を自らの器に永遠に紐付けすべく、ついに今まで自分を育て、自分として生きてきた筈の「鹿島の魂」を、なんの躊躇もなく供物として差し出したのだ。
肉体との唯一の繋がりすら奪われ、本来自分のものだった体内で「異物」扱いされた魂は、遂に思考能力の全てを失い、ただその器に存在することだけを目標として、「身体の持ち主」である彼の魂に取り込まれていく。
先ほどまでの「鹿島」に張り付いていた「提督」という関係は、いつしか真逆の立場へと変わってしまっていた。
「ひゃぁぁ、キてるっ、もうすぐっ、イくんだ……! イったら絶対戻れなくなるっ、そんなの、そんなのっ……! 最っ高……♡っあぁああぁあぁあっ……♡♡」
もはや恥もなく、ただ思うままにぐちゅぐちゅ、じゅぼじゅぼと音を立てて快楽を貪り散らかし、欲望のままに歓喜の雄叫びを上げる。
彼女のものだった身体も、魂も、もはや抵抗する様子は微塵もなく、彼の下僕と化して新たな支配者のもたらす快楽に酔いしれる。その意識は既に2人というより1人といったほうが適切だった。
「あぁあっ、イくっ、イっちゃうっ! 魂も、肉体も、存在ごと「鹿島」のこと全部奪われて、一部にされて生き続けるんだっ……! んあぁっ、これで、全部盗られるっ、さよなら「私」っ、これからは俺の身体、俺の脳みそ、俺の魂として、大事に使ってやるからなっ……! ひあぁあっ、イっ、ちゃっ……やぁあぁああぁあああっ……!!」
宣言すると同時に肩を震わせ、背筋をピンと伸ばして絶頂を迎える。先程乳首で味わったのより遥かに強烈な快感が脳髄と魂を焼き払う。そうして何もかも焼け落ちてまっさらになった器に、新たな存在としての定義が芽吹いていく。元の形は完全に失われ、『彼女/彼』だけがこの世界に残ることとなった。
絶頂の余韻で動けないまま床に倒れ込み、なんとか呼吸を整える。
「はぁーっ、はぁーっ……ふぅーっ……ふふっ、凄いなこの身体、まだ気持ちいい、んっ、ぁんっ……」
少しずつ動けるようになると、完璧に自分のものになった身体を満足げに撫でて甘い声をこぼす。触られた興奮をあらわにしてじわりと熱くなるその肢体に、もはや抵抗の色は微塵も感じられなかった。
ゆらっと立ち上がり、執務室備え付けのシャワー室で汗を洗い流す。以前より遥かに敏感な肌の感触、お湯は胸の中で一旦留まり、代わりに股間ではそのまま脚を伝って落ちていく。全てが新鮮で、自分がこれまでとは全く違う肉体を使って生きているという事実を鮮烈に感じ取っていた。
ここで初めて、彼は性欲の対象ではなく自分の器として鹿島を意識する。
「俺の全権限を引き継いで、立場は変わらないとはいえ、これから一生俺の名前は「鹿島」で、性別は「女」で生きていくのか。中身は完全に俺で、身体だって俺色に染まりきってるのに、外見が鹿島のだから、トイレも風呂も同じところでするようになるんだ……うふふっ、スケベな提督さん。私の目玉と立場を利用して覗きしちゃうつもりなんですかぁ? ……ふふ、いいですよ。だってもうこの肉体も、魂も提督さんの器なんですもの。便利な覗き穴として使おうが、研究のために連日徹夜させようが、提督さん専用のオナニーボディとして使おうが、提督さんの大事な明石さんとのセックスボディとして二人でこの身体を開発しようが、全部提督さんの自由なんですから。……あぁ、最高だよ鹿島。身体中を通る敏感な神経も、イっても全然疲れないカラダも、この綺麗な見た目も、俺の一部として従順な魂も! 全部気に入ったよ……!」
身体をぎゅっと抱きしめる。鹿島のだった少女の器は己を支配する魂が自分のことを気に入ってくれたという事実に心から喜び、身体中から幸福の信号を溢れさせた。
やがて身体を洗い終え、シャワー室を後にする。それまでの間シャワー室では何度も甘い嬌声が響き渡り、結局あがったのは1時間後の事だったのだが。
彼女の意識を引き出すまでもなく、肉体に宿った習慣を利用して下着を身に着けると、彼女の服……ではなく以前の身体で着用していた軍服を身に着ける。
「これからは『艦娘 鹿島』ではなく『提督 鹿島』になる訳だし、こっちの方が相応しいよな。しかし少し大きいか……後でサイズ変更の申請しておくか」
少し男の香りの残る軍服への懐かしさや胸を盛り上げる違和感を感じながら、鹿島はニヤリと笑みを浮かべる。
新しい服、新しい身体、新しい立場、全てを一新して『提督 鹿島』がここに産まれた。
この日より提督の地位を受け継いだ鹿島は、以前の彼に匹敵する指揮を発揮し、研究を引き継いで、健康で丈夫な身体を駆使して以降彼を凌ぐ戦果を挙げることとなる。
明石との女性同士での婚姻も果たし、艦娘としてではなく提督として大成した彼女に『提督の再来』と評され、軍部の評価も順調であった。
この裏で何が起きているかは全てが秘匿され、彼より全てを『継承』した鹿島は、今日も提督として指揮を振るっていた……