なんか知らないけど最近広告表示されるやつ無くなりましたよね。作る側としては気持ちラクだし、見る分にもラクなのでありがたいんですが。というかアレ、もはやスパムでしたよね。百害あって一利なしって感じですわ
ついったのアンケート2位は普通に書き上げるって決めてたので、2位のシスター乗っ取りです。2位になったばっかりに乗っ取られるわけですが、こればっかりは仕方ないですよね。みんな好きだろ?民主主義
アンケート1位は別の子で、たぶん冬コミのネタになるのでいつか告知します
でもこのアンケートよく見ると40票入ってないんですよね。100冊つもりなんだけど大丈夫なんかな……
深夜、ある修道院で1人の女性が目を閉じ、祈りを捧げていた。
シスター・クラリス。神聖王国内でも類稀な強大な魔力と霊力を持ち、「聖女」と人々に慕われる乙女。
貞淑な修道服は身体のラインを、ステンドグラスより漏れる色とりどりの月明かりから黒一色を使って切り取っているようであった。日頃の節制によるものだろうか、その身体は同じ年頃の女性たちよりいくらか華奢にも見えるも、それさえ彫刻のような美しさを放っている。
ベールからは金色の髪がふわりと伸び、その雪のように白い肌とともに漆黒の修道服の中で一際輝いているようであった。
そこには神秘とさえ思わせる静寂のみが存在していた。
ガチャリ。
そんな完成された静寂が、不躾なドアの音によって崩される。更にコツ、コツという足音が続く。音の数からして入ってきたのは2人組のようだ。
「ふーん……地方の街の修道院にしては良くできた建物じゃねーか」
粗暴な言葉遣いと共に現れたのは軽い装備を纏った女性。最低限として肩や胸に鎧、その他手甲や硬いブーツを着用している。服は上下が分離した武闘服で、動きやすさが優先されているようだったが、胸元をはだけ、過剰なまでに切り込まれたスリットから伸ばす姿は本来の服から改造されたモノと伺えた。
茶の短髪に同じく茶の瞳。気丈そうな目鼻立ちの美女。おそらく己の体躯を武器としているであろうことは一目で容易に想像がつく姿であった。
「んーっ、と。この辺りは古い賢者様ゆかりの地らしくて、その名残で魔導院からも教会からも重役候補の多くが王都の前に一旦住む地域みたいになってるらしいっすよ」
その隣には先述の女性より少し大人びた雰囲気の女性。帯剣しており、何度も握るせいか右手は包帯と手袋で守られている。流れるような真っ黒の髪は腰辺りまで伸びており、それに合わせるかのような切れ長の目をした鋭い雰囲気をもつ美女だった。
そんな見た目の雰囲気とは裏腹に、彼女はやけに軽そうに話す。風貌からして隣の女性の方が年下のようなのだが、話し方は自身の方が下であるといった風であった。
「ふーん、なんでこんな辺境に、と思ったがそういうことか。それいつの記憶なんだ?」
「1個前の魔導士のリベアちゃんっす。あの子色々識ってたんで便利だったっす」
王国でも有名な2人の傭兵。数ヶ月前から共に行動を始めたという拳士ミリアと剣士アイシャ。何やら話を続けながら、2人はクラリスの元へと近づいていく。
「……ここは修道院です。来るものは誰であれも拒みませんが、神聖な場所でもあります。お静かに」
「ん、ああ、すまんすまん……ほーぅ、確かに噂通りの美人じゃねぇか」
クラリスが閉じていた瞳を開き、入ってきた2人の会話を咎める。サファイアの如く透き通るように光り輝く青の瞳が姿を現す。それは金の髪、黒の服と合わさって人形とさえ錯覚するほどの美しさを引き出していた。
「兄貴ぃ、ホントにやるんです? 下手したら殺されますよぉ?」
「仕方ねぇだろ。魔導院も王国も収穫ナシ。このままじゃどっちみち死ぬんだからよ」
「……? 貴女達、何を……?」
様子がおかしい。ミリアとクラリスは初対面だったが、王国内でも最強格の剣士ということもあって、アイシャとは何度か話したこともあった。その時の彼女は鋭く、冷静で、厳格という印象であった。
が、今のアイシャからはそのような雰囲気は微塵もない。濁った瞳といやらしい視線、だらしない笑み、そして先ほどの喋り方。まるで、別人のような……
「……っ、まさか……!?」
「え、気づかれたんすか!? すげぇ、初めてじゃないっすかね!?」
「まぁ聖職者、しかも巷でも有名な聖女様だしな。俺たちみたいなのにも何度か対峙しててもおかしくないだろ」
2人が驚いた顔をする中、クラリスは更に驚いていた。今まで見た人に取り憑いた霊は皆、強烈な未練や目的意識のみを持ち、理性と呼ばれるものは殆ど持ち合わせていなかった。
しかしこの2人は別人の、おそらく男のものと思しき魂に取り憑かれている状態で、彼らの人格が維持されているのだ。
しかしクラリスは驚いた様子は見せない。それが付け入る隙になると分かっているから。神聖な光の魔力を両手に溜めて、2人に狙いを定める。
「今すぐ、取り憑いている2人を解放して下さい。さもなくば、浄霊致します」
キリッと2人の方を向き、両手に溜まった光を見せる。はるか古来より神より祝福と加護を受けた光の魔法は、生者に影響を与えず、この世に居座ろうとする死者の魂のみを消し去る。ミリアとアイシャに取り憑いている魂に意識があろうと、例外は存在しない。当たれば確実に消滅する。
「うぇ、やっぱ持ってるっすよね、浄霊魔法……」
「無駄口叩いてねぇで準備しとけ、来るぞ」
「はぁーーーっ……やだぁ……」
軽く言葉を交わして、2人は身構える。そこには先ほどまでの、女性に取り憑いている男ではなく、王国最強クラスの傭兵2人、だだそれだけが存在していた。
「……行くぞ」
「うっす」
瞬間、クラリスに向かって同時に駆け出す。速さ、靭さ、しなやかさ、全てを売りにする拳士と、同じく速さ、そして流麗とも謂れる剣技を得意とする剣士。互いにその速度は並大抵のものではない。
「っ!! 神よ! かの者たちを、暗き意思から救いたまえっ!!」
光は弾となってクラリスの両手を飛び出す。彼女もそれなりに経験を積んできているだけあり、狙いは正確そのものであった。
しかし、2人は容易くこれを躱してみせる。その身体は取り憑かれた霊に操られるまま、彼らを守るべく全力を尽くしているのだ。
それでも、何度も何度も浄霊魔法を繰り出し続ける。一度当たりさえすれば助けられるから、彼女たちを救いたい一心で撃つ。撃つ。
「っ、はぁっ……!」
「くひひっ、今だっ……!」
「きゃっ!?」
ただ一息、一瞬の隙だった。息が途切れたその瞬間をミリアの眼が見逃さなかったのだ。瞬間的に背後を取り、クラリスを羽交い締めにする。浄霊魔法を放つことができないように。
「ふぅーっ、つっかれたぁー……やっと捕まりやしたね、兄貴?」
捕まったクラリスへと、アイシャも近づき、素手である左手でクラリスの頬や髪を撫でる。
ステンドグラスに照らされた、誰もいない修道院で、3人の女性が密着しているという図はそれだけで背徳的なものさえあったのだが、ここにいる全員の認識はそうではない。2人の男が、1人の女性を抑えつけている、というのがこの状況の正しい解釈な
のだから。
「すっっ、げぇ……フワッフワの金髪にすべっすべの肌……マジで綺麗な女っすねぇ……へへ、濡れてきたっすよ……」
「……私の身体に、乗り移るつもりなのですね……! 今まで見てきた死霊達に貴方達ほど人格を保った者は居ませんでした。貴方達は、一体何を……!?」
「あー、それアイツの前のカラダも言ってたな」
ミリアの身体を使う霊は、彼女の声を操ったまま、アイシャに指差して話す。前のカラダ、ということはアイシャやミリア以前にも誰かの肉体に乗り移り、自分のモノのように使ってきたということだ。
「前のって、リベアちゃんっすよね。兄貴が踊り子だったセラちゃんのカラダ捨てたくないって駄々こねてオイラが乗り移った」
「あのなぁ……」
「あの時抵抗されてその前のカラダ焼かれた時は流石に兄貴呪ってやるって思ったっすけど、お陰でリベアちゃんの記憶から魔導士の事とか院の事とか、色々知れたっすからねぇ」
「……!? ま、さか……!?」
ここでクラリスはある事実に気付く。ミリアとアイシャは確かに傭兵として名を挙げた存在だ。しかし中身はもともと亡霊だった男達。おそらく戦闘における訓練などまともに受けていないはずの彼らが、何故ここまで彼女達の身体を十全に扱えるのか。
そして何より、今アイシャの口から出た、「記憶から」という言葉。つまり……
「貴方達、乗り移った相手の記憶を……?」
「あぁ、ちょっと条件は要るが読めるぜ? 当たり前だろ? 俺たちが取り憑いて使ってるのは本人の、本物のカラダなんだ。記憶が読めない方がおかしい。そうだろ?」
「ま、そういう事っすね。だから『取り憑かれた時は許さない、私の身体は絶対に渡さない、って息巻いて必死に抵抗してた私の脳みそも、今では全て、戦いの勘や技術だけでなく、性感帯や経験人数、他人に知られたくない事さえ隅から隅まで丸裸にされてますの』……って、コイツを真似るのも容易いって訳っす。めんどくさいからやらないっすけどね」
「っ、そん、なっ……!」
ミリアが自身の頭をトントンと叩きながら答えると、アイシャに取り憑いている男は戯れとばかりに元のアイシャの演技を始める。話している内容はさておき、その口調、雰囲気、何もかもが彼女そのもので、もし事実を知らなければ何者かがアイシャの身体を奪い、成りすましているなど気付く余地もなかっただろう。
同時に、聡明なクラリスは気付いてしまう。それはアイシャが彼女だけのものとして大切にしてきた記憶、人生そのものが奪い取られているという事実であり、そして何より、このままこの霊に身体を乗っ取られてしまえば、今度は自分が同じ目に遭うという事に。
「貴方達は、一体何者なのですか……!?」
クラリスにできることは、とにかく時間を稼ぐことだった。自身の魔力と霊力を全身に纏い、霊の侵入を防ぐための。2人はクラリスを捕らえていることに気を良くしているのか、話を続ける。
「俺たちは元々王国のはずれの山の中を根城にしてた盗賊なんだよ。それがひょんなことから根城で全滅しちまってな」
「光るキノコ食ったんすよね」
「それ間抜けっぽいから言うなって言ってんだろ! ……まぁそんな訳で、気がついたら俺たちは全員亡霊としてこの世にしがみ付いてたんだ」
「全員……!?」
盗賊という存在に、この世に未練を残しやすい性質のものが多いのはクラリスも経験上知っていた。
しかしそれも100人に1人程度。全員が亡霊化するなど聞いたことがないからだ。
「自分の身体が腐り落ち、骨になり、あぁ俺たちもこのまま死んじまうのかなぁ、って思った矢先、俺たちの調査に何人か兵士みたいなやつがやって来やがったんだ」
「その時に、彼らに……?」
「全員がそこに来た奴らに取り憑いたよ。だがここで問題が起きた。取り憑いた奴らのほとんどが突然苦しみだしたんだ。要は失敗しやがったんだよ」
「失敗した彼らは、どうなったんですか……?」
「成功したのは俺とコイツだけ。他は全員、取り憑いた奴ごと死にやがった。俺達67人のうち、2人だ」
クラリス自身、取り憑かれた人間とはそれなりに相対してきたと思っていた。しかしそれも10人ちょっとのこと。試行回数が違う。彼らはその一瞬で67人分の試行を行い、そして2人の成功者が現れたのだ。自意識を維持しながら、他人に乗り移ることのできる存在となった成功者が。
「俺たちの目的は一つ。こうやって身体を転々とするのも面白かったんだが、やっぱりどう頑張っても借り物の身体なんだよな。だから俺たちも生きた自分の肉体ってのが欲しいんだ」
「このカラダでもいいんすよ。てか寧ろこのカラダの方がいいんすよね。美人で、強くて、しかも気持ちよくて……んっ、ふひひっ……」
アイシャはだらしない笑みを浮かべ、服の上からその身体をまさぐりだす。おそらく2人が組み始めてからの数ヶ月の間、アイシャの肉体は彼女へと取り憑いたこの男にいいように操られ、今と同じように……いやそれ以上に淫らに利用されてきたのだろう。
「なんて、酷い……!」
「他人の心配する暇があったら自分の心配をしたらどうだ? そんな酷いやつの新しいカラダになるんだからなぁ?」
「いえ、そうはなりません……!」
クラリスがハッキリと答える。溜めた魔力を身に纏い、霊の侵略を防ぐ結界が完成したのだ。出来てしまえば最後、クラリスの魔力が尽きぬ限りこの防壁を突破することはできない。そして2人の、生身の体力の範囲内では魔力が尽きることはない、そう判断していたのだ。
「確かに、俺たちの力じゃこの結界は破れないな」
「すっげー、アイシャちゃんの脳みそも今までの人生で見たことない精度の結界だ、って言ってるっす」
アイシャに憑いている男はさも当然の権利であるかのように彼女の脳内から記憶をほじくり回し、彼女の声で言葉にする。
奪い取った他人のカラダを、まるで自分のモノのように扱う行為。異常なはずのその状況を、アイシャの身体は、それを操る彼は、なんら疑問に思うことなく受け入れて行動している。行動させている。
「……?」
そんな2人に嫌悪感を覚える中で、ふと違和感に襲われる。彼らは何故ここまで冷静なのか、何故ここまで他人事のようなのか。何故、奪い取った綺麗な顔で、イヤらしく笑い続けていられるのか。
「ふへへ、じゃあそろそろ付けるっすね」
じゃらり、アイシャの服の中から音と共に何かが取り出される。禍々しい目玉の紋様が刻まれた、奇妙な首飾り。
「『隠者の首飾り』……って知ってるか?」
「……っ、まさか……! なぜ、貴方達がっ……!」
それは魔導士が修行や、己が身分を隠すために用いるとされる装飾。装着している間強制的に魔力を0にしてしまう、というモノ。
「貴重品なんだってな、これ。昔貴族の護送車を襲った時の戦利品だったんだが、こいつがまさかの大当たりでよ。コレをつけてる時に乗り移った俺とコイツだけが自我を保ってたって訳なんだよな」
「つまるところ、コレをつけられたら最後、結界を張ってようがなんだろうが関係なくオイラ達にカラダを明け渡すしかなくなるって訳っすね」
「そ、んなっ……! くっ……!」
クラリスはここで初めて恐怖を露わにした。どれだけ手を尽くしても、自分の身体がこの場で奪い取られるという事実が確定しているということをわかってしまったからだ。必死に振り解こうとするも、彼が乗っ取っているミリアの身体の持つ腕力は遥かに強く、微動だにしない。
「ふひひっ、じゃあ掛けるっすよぉー?」
「やっ……やめっ、て、くださいっ……!」
「暴れんなって。俺の大事なカラダに傷が付いちまうだろ?」
「……っと、ほい。ふへへっ、掛かったっすよぉ」
抵抗むなしく、クラリスの首元には目玉の紋様の刻まれた首飾りが怪しく光る。瞬間、心臓がズクン、と高鳴って全身に魔力が流れ始めるのがわかった。循環した魔力は胸元で、まるで水が穴の中に落ちていくかのように次々と、紋様に向かって吸い込まれていく。
「ぃっ……ぁ、ぁ……あっ……!」
「ひひっ、魔力にせよなんにせよ、女が苦しみ喘ぐ姿はソソるよなぁ」
「わかるっす。オイラ自身は気持ちよく喘ぎたいっすけどね」
苦悶の声を漏らし続けるクラリスを横目に、彼らは呑気に話を続ける。美しい女性の声で、女性を犯す話を、だ。そしてこのような性の化け物に自身の身体が奪われると考えると全身の怖気が止まらなくなる。
そして遂に、クラリスの持つ魔力の全てが首飾りへと奪われてしまった。せっかく張った結界は維持のための魔力供給をなくし、儚く崩れ落ちていく。そしてそれは同時に、亡霊たる彼らの侵入を許すことへと直結していた。
「さてと、じゃあ心置きなく入らせて貰うぜ? よろしくな、俺の新しいカラダ♡ ぐっ、おぉおおぉおおぉぉおぉっ、!!!」
「そんな、やめっ……ひぎっ!? が、ぁっ……!?」
ミリアの身体に取り憑いていた男の魂が抜け出し、今度は目の前のクラリスの肉体へと潜り込んでいく。ミリアから魂が抜け出るごとに、クラリスへと入り込むごとに、ふたりの身体はビクッ、ビクッ、と痙攣する。本来なら入り込むことなど出来ないはずのシスターの身体は、首飾りにより障壁を取り払われたことで、いともたやすく侵入者を受け入れてしまった。
それから少しして、痙攣していたミリアの動きが止まる。そして次の瞬間にはまるで糸の切れた人形のように地面に倒れ伏してしまった。それは数か月に及んで支配されていた亡霊からの解放、でもあったのだが……
「……ふぅーっ……なるほどなるほど、前の身体と比べると確かに華奢ではあるが、これはこれで柔らかく美味そうで、悪い気はしないな」
(そんなっ、うそっ、私の、カラダがっ……!)
それは男の魂がミリアを解放したと同時に新たな依代を得た証でもあった。取り憑かれてしまったクラリスはニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべ、黒い修道服の上から自らの身体を確かめるように撫でまわす。本来のクラリスの魂から送られる命令は完全に遮断され、支配権さえ奪われて好き放題されている自分の姿を、同じ身体の中で見ていることしかできなかった。
「じゃあ兄貴、いつも通りこっちもこのカラダ、準備しとくっす。あと兄貴の前のカラダはいつも通り一旦宿まで持って帰るっすよ」
言いながらアイシャは倒れるミリアを担ぐ。そのまま、意識のないミリアの身体と共にその場を後にするのだった。
それからもしばらくの間物珍しげに自分の身体を撫で続けていたクラリスだったが、ふとそれにも飽きた様子で、今度は胸元に着けられたままだった『隠者の首飾り』に手をかけ、外す。
彼女が全てを奪い取られる要因ともなったそれは、彼が移ることに成功した以上もはや用はない、といわんばかりに容易く彼女の首元から離される。
「んーっ……ある程度魔力のあるカラダでこの首飾りを外すときの感覚、気持ちいいよなぁ……うん。やっぱ相当魔力持ってたな。今まで入ってきた中でも最高かも……!」
(そんな、私の力が……!)
自身の高い魔力に酔いしれ、両手を前に掲げると魔力の塊が光になって姿を見せる。身体を乗っ取られたことで、クラリスの魔力も同じく彼の支配下へと落ちているのだ。
しかし、それだけではない。クラリスはニヤリと笑みを深めると、別の呪文の詠唱を始める。
「くひひっ、今じゃこの力だって全部俺のものって訳だ」
(そんな、それは……! 嘘っ……!)
それは先ほどクラリスが彼らに向けて放ち続けた浄霊魔法。本来亡霊である彼なら触れた瞬間魂を焼却されるはずの魔法であった。しかし彼はそれを、依代であるクラリスの手から出し続けているのだ。浄霊魔法に飽き足らず、彼はクラリスの口と手で、彼女の魔力を勝手に使って様々な魔法を行使する。それは魔導の才能など一切持たない、本来の盗賊であれば知る由もない術理、節理。これまでの間に取り憑いてきた魔導師の脳を食い散らかし、自らのものにしてきた知識たちだった。
(頭の中にっ……!? やだっ、やめて、やめてくださいっ……!)
「脳みその性能が良いと記憶の定着がラクで良いなぁ……! まずはお前の記憶が読めるレベルまで、馴染ませて貰うぜぇ?」
柔らかそうな桃色の唇をイヤらしく歪め、彼が命令を繰り出すごとに、クラリスの脳はそれを一つずつ覚え込んでいく。他人に記憶を植え付けられるという現象自体が初めてであるクラリスの脳は当然抵抗する術など持ち合わせておらず、彼の持つ知識を、記憶を、脳の持つ当然の機能によって記録、定着させていってしまう。そして定着が進めば進むほど、クラリスの脳は男の魂と共鳴を始め、彼に自分の持つ権限を明け渡しはじめたのだ。
「うん。表面上の記憶はもう全て読めるな。手始めにこのカラダの住む部屋まで案内してもらうとするかな?」
(ぅあっ……頭の中が、吸われてるっ……! イヤっ……!)
彼は新たに手に入れたクラリスの中の権限を利用し、彼女の記憶を読み始める。「手始めに」というだけあり、引き出したのはごくごく一部。しかし「記憶が読まれる」という行為そのものがクラリス本来の精神に与えられる不快感は壮絶なものであった。
「私の部屋は……左側、手前から3番目……あった」
読んだ記憶の通りに、当たり前のようにクラリスの部屋のドアを開け、中に入っていく。
時は深夜。暗い部屋に魔力を使ってとりあえず明かりを灯す。これをするごとに魔力のない盗賊だった頃は必死に火を点けていて、それに係る費用がバカにならなかったことなどを思い出し、今の優越感にほんの少し頰が緩んだ。
窮屈だったと言わんばかりにふーっ、と息を吐きながらベールを脱ぎ捨てると、繊細な金色の髪がフワリと解き放たれ、柔らかな匂いが鼻腔をくすぐる。
「すーっ……はぁーっ……ふふふっ、聖女サマの髪は色も匂いも綺麗だ……ずっと嗅いでいられるなぁ……」
(ちょっとっ……! やめてくださいっ……!)
ふわっとした髪を手で掬い、だらしない笑みを浮かべながらすんっ、すんっと匂いを嗅ぎ続ける。自分の身体を使われて、自分の髪の匂いを一心不乱に嗅がされる姿は、恥辱そのものに感じられた。
「次は……うん、流石シスター。ちゃんと全身鏡だし、よく手入れもされてる。ふふふっ……」
(な、何を……?)
「決まってんだろ? 新しいカラダの確認さ。ふひひっ、さっきは暗がりでよく見えなかったが、すげぇ綺麗な顔してんなぁ……」
恍惚に口元をほころばせながら、頰を、鼻を、唇を、確かめるようにまさぐる。次第に顔は熱を帯びて紅く染まり、喉から漏れる息にも艶がかかっていく。
「はぁーっ……くひっ、ふひひっ……♡」
(ひうっ!? な、なにっ、これっ……!?)
その美貌を有しながら、神に仕え、生まれてから今に至る18年の間純潔を守り通してきたクラリスの魂。彼女にとって肉体が興奮するということ自体が未知の体験であったのだ。
困惑するクラリスの魂のそばで、彼女の肉体はこの感覚に肯定的な態度を見せてしまう。それは魂と肉体、本来1つであるはずのそれらの乖離を意味していた。
「へ……? ふふっ、くくくっ、あはははっ!! まさか、この歳で、この綺麗な顔で、生娘ぇ!? それは……好都合だ……!」
(何がっ……ですかっ……! やめ、やめてくださいっ……!)
「くひひひっ、じゃあお前のハジメテ、俺が貰ってやるよ。『オンナ』ってのはこんなに良いんだって、教えてやるよ」
ニターッと笑みを貼り付けたまま、まずは首元に残った白いベールを外し落とすと、黒一色のドレスのような服だけが残る。
貞淑な黒色ではあるが、費用のせいか布の量は多くなく、服そのものにゆったりしたところがない。それはつまり……
「すっ……げぇ……こうやって後ろから締めてやると、体のラインがクッキリ出てきて……コレがヘソで、ここが足の付け根かぁ……これはこれで、エッロぉ……♡」
(やだ……身体中が、ゾワゾワしてるっ……! 私、どうなってるの……!?)
晒される身体に、クラリスを支配する男が興奮を示す。それはクラリスの脳へと伝わり、そのまま肉体に興奮命令へと姿を変えてフィードバックされる。じん、じんと沸き起こる熱と衝動を、クラリス本人の魂はただ困惑しながら受け止めることしかできない。
「ふひっ、それではぁー? ご開帳ぉー♡ おほっ、惚れ惚れするスケベボディだねぇ……♡」
(いやぁっ!! やめてっ、やめてぇっ!!)
クラリスの必死の抵抗も虚しく、修道服はその手によってはらりと音を立てるように床へと落ち、下着に包まれた美しい肢体が露わになる。
鏡に映るそれを、クラリスの顔は綺麗な瞳を、柔らかな唇をイヤらしく歪めて見つめていた。その姿はクラリス自身が自分に欲情しているようであり、自分の身体が男の意思を体現する器になってしまっている事実を確かめさせるものでもあった。
「このカラダに入った時から胸元キツいなと思ってたけど、やっぱり胸元締めてたんだ。……ってことは……!」
今にもヨダレを垂らしそうなだらしない笑顔で、サラシのように巻かれた布に手を掛ける。動きにくい上に、清廉潔白な神の使いである自分にこのような性の象徴は必要ないとして、毎日布で抑えて巻きつけ出来たそこを、自らの手で解き放ってしまう。
「ふへへっ、デカくて、ハリがあって、ほんとイイおっぱいしてんなぁ? 揉まれる感覚も、結構敏感で……んっ♡ ふひひっ、乳輪までぷっくり勃って、良いねぇ……♡」
(な……!? なんですかこれっ!? 私の身体に、何をしたんですかっ!?)
「そっかぁ、生娘の君にははじめての感覚かぁ。これは身体が興奮してる証だよ。そして女の身体はこの状態だと……んうっ♡」
(ひゃあぁあっ!? こ、これ、はっ……!?)
興奮した身体で、盛り上がった乳輪を優しく撫でる。全てが初めてであるクラリスの精神にはそれさえ未知で、強烈で、そして甘美なものであった。
(こんなのっ、こんなの、ダメですっ……!)
高潔なクラリスの精神は、流れ込む快楽に抗った。……逆に、彼の依代となってしまったクラリスの肉体は、水を吸うスポンジのように貪欲に、快楽を受け入れてしまった。
彼の刺激は執拗なほどに続き、流れ込む快楽によってクラリスの身体はピクピクと軽く跳ね、喉からは甘ったるい声が漏れる。
「ぁんっ♡ やぁっ♡ 綺麗で高くて、良い声で鳴くじゃねぇか……んうぅっ♡」
(やだっ、そんな声出さないでくださいっ、やめてっ、私の身体でそんな事しないでっ……んっ)
「諦めろって、このカラダはもう俺が貰うんだからさ……そろそろ乳首本体も……ひぅうっ!?」
(ひゃぁあぁっ!!!? な、何!?)
興奮により昂ぶってきたカラダの、ピンと張った乳首を摘むと先程まで撫でていた乳輪全体に快楽の電流が流れだす。生まれた電流は勢いを維持したまま乳房、胸元、背筋、首筋、そして脳髄へと流れ込み、全身が快感にあてられて麻痺してしまう。
「やっ♡ ぁあんっ♡ ひぁあぁっ♡ すごいすごいっ♡ このカラダ、ホントにハジメテかよっ♡ 指が、乳首コネコネするのが止まんないよぉ♡」
(ひゃぁあぁっ、やだっ、やだやだっ、こんなのっ、私じゃ、私じゃないですっ……!)
立っていた足の力が抜け、ベッドへと座り込み、それでも乳首への刺激は止まらない、止められない。この気持ちよさを、甘い甘い雌の悦びを、止めるわけがない。心と身体がそう言っているのだから、止める理由などどこにもない。
「はーっ、はぁーっ……すっ……げぇ、益々気に入ったぜこのカラダ。そろそろこっちの準備も整ってきたし……んっ♡ くひひっ」
続いて彼は下半身にある純白の布へと狙いを定める。……純白、ではなかった。その布の中央には、縦向きにシミができていたのだ。
「うん、ちゃんと濡れてる。この肉体が俺のカラダに相応しくなってきた証拠だな?」
(やめて、もう、やめてください……!)
「やめるわけないだろ? 俺だって生きるのに必死なんだ。お前の身体を貰って、なァ? んぅうっ♡ んー……おまんこも気持ちいぃ……♡」
(っ……! ぅっ……!)
彼は布の上からクラリスの性器を撫でさする。疼きとともに快楽と粘り気のある液体がじわりと広がり、白い布や周りの肌まで侵食していく。
くちゅ、くちっ……とイヤらしい音が鳴り始め、指の感触も次第にヌルヌルしてくると、濡れそぼったそこに軽く指と布が入ってしまう。
「だいぶ準備も整ってきたし、そろそろヌルヌルして気持ち悪いし、脱ぐね?」
クラリスはベッドに座り込んだまま、鏡の前で両端を掴んで、ずり下ろす。彼女のカラダから滲み出た粘液によって、布と性器は名残を惜しむようにぺちゃりとくっつき、透明な糸を引き、やがて離される。そうして露わになってしまったソコを鏡越しに映して、舐めるように眺める。
綻ばせた口元をペロリと舐めずる。その表情も実に淫らで、性器の奥、下腹部がキュンとする。雄と雌が互いに求め合うそれは求愛に近く、この女を犯したい、この男に犯されたいという欲求が、一つの肉体で反響し、堆積していく。
「ふふふふっ、カラダが期待してる。じゃあ早速味わわせて貰うぜ。いただきまーす……んっ♡」
クラリスの濡れそぼったソコは美味しいもの口にする時のようにくちゅぅっ、と音を立てて、指を呑み込む。瞬間、快楽の電流がぱちぱちと弾け、肉が蕩けるような感覚を味わう。そうやって綻んだ中に潜り込むようにして、彼の魂は肉体を奪い取るのだ。
「やっぱこうやっておまんこから入り込んで乗っ取るのが一番ラクで気持ちいぃ♡ ふふふ、このまま俺のカラダにしてあげるからねぇ……♡」
(そんな、そんなっ……ホントに、私の身体が、盗られてるっ……!)
「そうそう。俺に犯された女はみんな、こうやって俺に従順なボディに生まれ変わっていくんだ。そしたらクラリスって女の身体の持つ全能力が俺のモノになるのさ」
記憶を完全に奪い取る。それは今の表面上の感覚だけでなく、頭の中の、奥の奥。クラリスという存在の持つ全てを奪うことで完成するのだ。抜け出したあと本人がどうなったかは知ったことではない。何人かは本人からの魂の命令を受け付けなくなり、目覚めなくなったらしい。何人かは頭の中が変質し、強姦や窃盗で捕まったなどとも聞いているが関係ない。
「んっ♡ あははっ、ホントに新品のプニプニじゃねぇか。なのにこんなに気持ちいいっ♡ はぁぁ凄いっ、最っ高……♡ やぁんっ!♡」
股間から鳴り続けていた粘液たちのくちゅくちゅとした音は貪れば貪るほどに品をなくし、汚らしくぐっぢょぐっぢょと、音量を上げて部屋中に響く。
「あぁあっ、良いっ♡ 気持ちよすぎて、おまんこほじほじするの止まんないよぉ♡ クラリスとして生きてたら、こんなの知らなかったんだ、知れなかったんだぁ……!」
今まで様々な女性の肉体に乗り移り、欲望のままに快楽を貪ってきた男の魂。初心なクラリスの肉体にとって彼からもたらされる快楽はあまりに強烈で、刺激的で、甘美なものであった。
そんな快楽を今までの人生でカケラも与えることなく、今なお否定し続けるクラリスの魂。2つの間の亀裂はだんだんと深く大きくなり、そしてクラリスの肉体は少しずつ彼へと擦り寄り始めてしまったのだ。
「ふぁあっ♡ もっと、もっともっとっ♡ クラリスの処女おまんこ、好き放題いじいじしてっ♡ 貴方を刻みつけてぇっ♡」
(そんな、こんなの、私っ、違っ……!)
クラリスの肉体は快楽を与えてくれる彼の魂に惹かれ始めていたのだ。同時に勿論、彼はクラリスの肉体を求めている。互いに求め合い、快楽によって結びつきを強める。この行為も、それによって得られる結果も全て必然だった。
「はっ……♡ はっ……♡ はぁあっ……♡ ほふっ……♡ ひぁあぁっ♡♡」
(こんな、獣のような……! こんなの、私では……っ!)
もはや言葉を発すことすら辞めて、その身体での快楽を、クラリスという肉の器を貪り続ける。欲に溺れれば溺れるほど、彼の魂はクラリスの中枢へと染み込み、そんな彼を愛しいと感じ始めた肉体は、彼を受け入れるごとに脳髄に多幸感を溢れさせる。
もはやクラリス本人だった魂が干渉する余地などどこにもなくなっていたのだ。
(やめてくださいっ!! このままじゃ、私が、私じゃなくなってしまいます……!!)
「あぁあ゛あっ!! キたっ、キたキたキたっ!! これでっ、コレは、俺のボディだっ……! っぁ、イっ、くっ……! っ、ほぇっ……っーーー♡♡♡」
(ひっっ……!!! や、あ、ぁっ……!!)
ビクッ、ビクンッ!!と身体を震わせて、ついにクラリスの肉体は人生で初めての絶頂を迎え、そのままベッドへと倒れ込む。身体はハジメテを捧げた相手を覚え、彼に使われる肉体として相応しくなるよう調整を重ねていく。
そうして調整された身体の奥へと、彼は突き進んでいく。途中何度も肉体による認証があったが、クラリスの器は彼を既に『自分に快楽の味を教えてくれた、主人に相応しい相手』と認識してしまっているため、彼女が本来持つセキュリティはただ道しるべとしか機能していなかった。
(な……!? どうして、貴方がここにっ……!?)
クラリスという器の中枢。その手前に一つの魂があった。クラリス「だった」女の魂だ。それは既に肉体に見切りを付けられ、本来彼女が住むべき肉体の中枢から追い出されてしまっていたのだ。
そんな彼女を一瞥して、彼は最後の認証を行う。クラリスの魂を追い出したそこは、侵入者であるはずの彼を最も容易く受け入れた。
「う……うん……っ……」
別人ではあるものの、器の管理者が入ったことでクラリスのカラダは再び起動する。そのまま全身に力を入れて起き上がると、豊満な胸がぷるりと揺れる。その感触を快く思ってか、ニヤーッ、と下卑た笑みを浮かべた。
「くっふふふっ……シスター・クラリス。お前の身体、能力、名前。全部俺が貰ったぜ」
ニヤニヤ笑んだまま、鏡の前で自らの胸をぐに、と掴んで自分自身に見せつける。神に仕える身としては大きすぎると感じていた胸は、彼によって魅惑的なものだと認識を変えられる。
今までコンプレックスであった豊満なソレが、彼の魂を自らに繫ぎとめる武器になるという事実に、悦びに似たゾクゾクが止まらない。
「んっ♡ あぁんっ♡ ホンットに、良いカラダだぁ……♡ これからはこのスケベなボディを俺好みに育て上げてやるからなぁ……♡」
一度イッたことで味を覚えた身体は、軽く乳首をつねるだけで胸の神経を快楽でピリピリと痺れさせる。痺れとともにむず痒さを残し、血液を集めてピンと勃起させる姿は、もっと触ってと嘆願しているようでもあった。
応えてやるように、くにくにと刺激を続ければ続けるほど身体は熱を帯び、下腹部がキュンキュンと疼く。股間から粘性の高い液体が漏れ出し、太ももを伝ってくる。クラリスの肉体は一度の絶頂で、雌としての機能を完全に覚醒させることに成功していたのだ。
「ホントに、見れば見るほど惚れ惚れする、素晴らしいカラダだ……! それにこの匂いっ……♡ すぅぅ……っ……♡」
熱くなった乳房の下、脇、股間、あるいは全身から、ジワリと汗が滲み出る。むわ、とむせ返るほど強烈な雌の匂いが部屋中を包み、それはもちろんクラリスの鼻腔にも入り込んでくる。
本来なら自分自身の、何も思わないはずの匂い。しかし今、クラリスに住まう彼にとってはそうではなかった。クラリスという雌が、彼という雄を誘うべく生み出したフェロモン。これを全身に纏い、嗅ぎ、脳へと受け止めている。それは抱きつくや触れ合うなど相手にすらならないほど強烈な接触。
「はぁぁあぁぁぁっ……♡♡ やばっ……♡ これ凄いっ♡ 脳みそ溶けるっ……♡」
フェロモンによって活性化された性欲で一杯になった頭は、手を勝手に動かして股間に突っ込む。ソコは咥え込む、という言葉の通りにぐぢゅぅっ、と指の侵入を受け入れる。誰の侵入も許したことのなかったがゆえに拒むようにキュッと締め付ける。それは同時に入ってきた指を離すまいとする動きでもあり、擦れるごとに快楽で全身がピクピクと痙攣してしまう。
そんな甘美な快楽を享受すればするほど、肉体と魂は更に融け合い、彼に従順な肉の器として完成へと近づいていく。
「あぁあっ……♡ 気に入ったぜこのカラダ……! 欲しい、このカラダも、快楽も、能力も、記憶も、存在そのものも、何もかも俺のモノにしたい……! エロいこと覚えたクラリスボディも、俺のカラダになりたい、俺に完璧に乗っ取られたいって、俺に惚れ込んでるのが分かるっ! 俺のカラダになった暁には、もっと色々教えて、もっと色々味わわせてやるからなっ! んあああぁぁああっ♡♡♡!!!」
乗っ取られ、自慰を重ねることでクラリスの、女の肉体に男の魂が練り込まれていく。続いて、彼の魂は褒賞だと言わんばかりにクラリスの脳へと接続し、自身の持つ記憶を流し込んでいく。それは数々の女性の体内に潜り込み、乗っ取ることで味わってきた快楽の記憶の一端。しかしそれは先ほどクラリスが味わったものより遥かに強烈で、甘美なモノ。彼に身体を明け渡せば、これより更なる快楽を味わわせてやるぞ、という誘惑。クラリスの肉体が、これに逆らう理由はどこにもない。
「ひゃあ゛あぁあぁぁっ♡♡♡ なりゅっ、なりましゅっ♡ アナタのカラダにっ♡ なりたいぃっ♡♡♡」
それは彼が言わせたのか、それともクラリスの器が発したのか。ドロドロに溶け合った「ふたつ」にとっては、もはやどちらかさえ定かではなかったのだが、これが総意であることに変わりはなかった。
しかし「なりたい」の言葉の通り、クラリスという生きた身体に、死者である彼の魂は適合できないでいた。その身体を完璧に手に入れるには、どうしても彼を生者の魂へと戻す必要があったのだ。
クラリスの脳は全力を以って記憶を辿る。今まで得てきたあらゆる魔術知識を、経験を、全てを確認し、彼を自らに宿す方法を思案する。
(……どれだけ探しても、私にそのような記憶はありません……だから、返してください……!)
自身の記憶のことを知り尽くすクラリスの魂は否定する。実際今までにそのような記憶はなく、もし望んだとしても死霊である彼を生者に戻すことなど不可能だと判断している。それでも、脳は検索を続ける。彼の肉体になる為に、彼に全てを捧げる為に。
「っ……!? ぁ……ぇっ……!?」
(……え? な、に……これ……!?)
それは記憶の奥底で破棄された欠片だった。本来人間の脳は約4歳、「物心つく」までの間の出来事を保持することはできない。クラリスも勿論例外ではなく、記憶として破損したソレを思い出すことなどできなかった。……本来ならば。
クラリスという少女が持つ高い性能の全てを使って、彼を自らへと定着させる術を探し続ける。そうして遂に、彼女の脳は、蘇らせてはならなかった記憶に触れてしまう。
『クラリス。もしも誰か大切な人を喪って、それでもその人と生きたいと願うなら、このおまじないを使いなさい。……願わくばそんな事は起きないのが良いんだけどね』
それはクラリスが2歳の頃。当時のおじさま、今の大司教様が彼女に教えたこと。なぜこのような大禁呪を教えたのかは記憶にはなかったが、それでも教えられた事実は破損していたとはいえ、頭の中に未だに残っていたのだ。
「これ、は……そんな……凄い……! おじさま、おじさまっ……! ありがとうっ……!」
(嘘……そんな、ダメっ! やめてっ……!)
それがどういう魔法なのか、今のクラリスにならよく分かった。分かってしまった。
自身の魂を贄に捧げ、死者の魂をその内へと招き入れ、全てを明け渡すことで死者をこの世に留める大禁呪。理解した瞬間に全てを察してしまう。彼の魂とクラリスの肉体が、クラリス自身の魂を無理矢理器にして、彼を蘇生しようとすることを、だ。
クラリスの魂がどれだけ止めようと、そのカラダは愉しげに彼女の指を使って陣を描いていく。その動き一つ一つが彼女の魂に対する処刑の宣告であり、彼の魂に対する忠誠の誓いでもあった。
「くくっ、ふふふっ、あはははははっ!! やっと! やっと生き返れるっ!! このカラダは! 俺のモノだぁっ!!」
(いや、いやああぁあぁっ!!!)
自分が魂ごと奪われることへの恐怖を露わにして、遂にクラリスが叫ぶ。しかしそれはただカラダの中を思念としてこだましただけで、なんの影響も及ぼすことはない。逃げ出そうにもカラダから抜け出すことはできない。つい先ほどまで彼女を守っていた堅牢な魔力は今、彼の命令によって彼女を閉じ込める檻と化していたのだ。
(そんなっ、嫌っ、待ってくださいっ! こんなのっ、ヤダっ!)
「じゃあ、いくぜ? よろしくな。俺の新しい魂?」
(ひっ!? きゃああぁあぁぁっ!!!)
魔法の力で突如クラリスの魂に開けられた穴。これが彼女の魂への入り口だった。彼は躊躇なく、そして勢いよく中へと飛び込む。抵抗すらできないまま、入り込む存在を受け入れてしまう。
(嫌ぁ……気持ち悪い……! 私の中に、入ってこないで、混ざってこないでっ……! 私を、盗らないでっ!! ……うふふっ、ふへへへっ……♡ ……っ! ちがっ、違うっ! こんなのっ! 俺じゃっ……? あ……れ? 私、は……そうだ……俺は、俺が。私なんだ……♡)
描いた陣の中央で、放心したように座り込んでいたクラリスがにやぁーっ、と笑む。その姿は彼女が新しく生まれ直した証拠。『彼の新たな器としてのクラリス』としての誕生の証であった。
ゆっくりと立ち上がり、身体の動きを確かめた後にぎゅーっ……と、愛おしそうに自らの肢体を抱き締める。
「はぁーっ♡ 長かった……でもやっと、手に入ったんだ。俺の新しい身体。本当に気に入ったからな、ずーっと、使い込んでやるぞ……んぅうっ♡♡♡」
彼にベタベタに惚れ込んだクラリスのカラダは、その口で呟いた「気に入った」「使い込んでやる」の言葉に心臓を高鳴らせ、興奮を強める。喜びで脳内を幸福に埋め尽くす。キュンキュンと下腹部が疼き、股間から粘液がトロリと零れ落ちた。
「……ま、アイツのことはいくら待たせてもいいか。それに新しい肉体の試運転だ。もう1回シてから行くとしよう。んぅっ♡」
鏡の前の自分に股間を見せつけながら、トロトロにヨダレを垂らして自分を誘う桃色の口に、右手を向かわせる。
全てを奪われ、そして全てを手に入れた『シスター・クラリス』の甘く蕩ける初めての夜は、教会の一室で密やかに、そして大胆に、まだまだ続くのであった。
…………………………
ーーー5年後
王宮内を1人の女性が歩いていく。傍にメイドを2人従える彼女は、1週間前に国王の急死によって即位することとなった女王、イルメリア。流れるような銀の髪、女神や天使と見紛うほどの美貌と、その優美な性格を以って民の信頼と敬愛を集める彼女の即位に疑問や不満を持つものはなく、執政も滞りなく行われていた。
そんな彼女が離宮の、ある部屋へと向かっていく。女王イルメリア直属の女性だけで構成された近衛隊。彼女の許可した人間以外絶対に入ることを許されない場所であった。
宮殿内を進んで大きな扉の前に立つと、奥からは何やら女性の声らしき音が聞こえてきた。しかもその声色は話し声のそれではなく……
「はぁーっ……」
溜め息を吐いて扉を開けると、むわっ、と強烈な淫臭が鼻腔へと入り込んでくる。その部屋では美しく、しなやかに鍛え上げられた女性たちが一糸も纏うことなく身体を重ね合わせていた。
イルメリアはそんな彼女たちの奥で、一際美しい女性達を侍らせて座っている1人に目を向ける。
「あのさぁ兄貴ぃー。乱交するなら言ってくださいって言いましたよねぇー?」
「んっ♡ ……? ぁ、お前か」
女王という立場にありながら、イルメリアは奥の女性になぜか、まるで弟分にでもなっているかのような口調で話す。話しかけられた女性も、相手が王女だと知りながらもあまりに軽い態度で返した。
女王の御前である、にも関わらず奥の女性は未だ踏ん反り返って周りの女に奉仕させる。彼女こそ、現王国大司教、クラリスに他ならなかったのだ。
その姿は5年の歳月を経て、当時からさらに魅力的な女性へと変貌を遂げていた。美しい金の髪は更に長く、ふわりとカールを帯び、節制により細く心細かった肢体は幾分か脂肪と筋肉を纏い、美しい身体のラインを際立たせていた。
「なんで言わなかったんすか! 魂吹き込んどいたメイドの報告がなきゃ気付かなかったんすよ!!」
「いや、お前執政に忙しいかなーって。女王様、大変だろ?」
「兄貴が『クラリスのカラダ手放したくないから、お前が姫に同化しろよ』って言うからこうなってるんすよ!!」
彼らこそ、あの時クラリスを襲い、身体を、魂を奪い取った亡霊達だったのだ。更に彼らは聖女という立場を利用し、教会の禁呪の数々さえ身につけていた。イルメリアのカラダを奪った弟分の彼がメイド達に魂を吹き込んだのも、この部屋で女性達が操られるままに身体を重ねているのも、全ては禁呪によるものであった。
彼らの計画は段々と巨大なものに変貌を遂げ、5年の歳月を経て王族の、姫の肉体と魂を奪うことに成功してしまったのだ。
「でも正直そのカラダ、悪い気してないだろ?」
「そりゃ……大事にされたカラダな分傷一つないし、王族だけあった魔術も剣術も知能も文句なしの出来っすけど!」
「じゃあそれでいいじゃねえか、な?」
言いながら、クラリスは立ち上がってイルメリアに近づいていく。イルメリアを支配する魂も、5年間彼の相手をし続けたことでクラリスの虜になっていた。その魅惑の肢体がぷるりと動き、誘惑してくる姿に興奮し、女王の器がゾクリと震える。
「ぁ……っ……♡」
「そのカラダに飽きたらまた別の魂に乗り換えればいい。この世界に生きたカラダがある限り、俺たちはそいつらに寄生して永遠に生き続けられるんだからなぁ?」
「俺たちにかかれば王族だって、聖女だって魂ごと思いのまま。命も魂も人生も、何もかも奪い取れる。っすよね」
「折角こんな素晴らしい力が手に入ったんだ。この世界を、裏から、喰らい尽くしてやろう」
「ふひひひっ……! 手始めに、この女王ボディを堪能しましょうぜ? もうこの肉体、待ちきれないっす……♡」
切なそうに股間を押さえ込み、くにゅくにゅと刺激を始めると、粘つく液体が女王のスカートを濡らす。そのままドレスを脱ぎ捨て、パンツをずらして女性器へと指を突っ込む。約1年前、姫だった頃から彼に乗っ取られてきたイルメリアの肉体も、2人の開発によって快楽を貪り尽くすに相応しい器へと成長を遂げていたのだ。
そうして、2人は自らの手に落ちた新たな肉体を重ね合わせ、共にそのカラダで快楽を味わい尽くす。
後の世界に覇を唱える王家の一族と、常に側に仕える大司教。彼女らの、そして彼らが世界を獲るための第一歩が今ここに刻まれてしまった。